科学研究費補助金・基盤研究(C) 2018-2020年度, 2021-2023年度

大学職員の内発性に基づく役割モデルの再構築に向けた国際比較研究


 本研究の目的は,韓国・台湾との国際共同研究により,3ヶ国での実践の中から形成されてきた大学職員の役割モデルについて明らかにするとともに,特に近年の3ヶ国における大学ガバナンス改革を受け変化している現状とその課題を比較検証することによって,今後の高等教育機関に求められる社会的責任の下での,日本の大学職員の内発性に基づく新たな役割モデルを提示することである.

 日本における大学職員論の展開方向を探るためには,これまで参照されることの多かった欧米諸国だけでなく,地理的・社会的・政策的近似性を有する東アジア地域の動向に目を向けることが必要である特に,大学教職員の労働市場や資格に関する社会状況が欧米諸国と は異なっている韓国・台湾との比較研究の中で,役割モデルに注目することによって各国の特徴を抽出し,構造的な差異と共通の課題を見出すことができる.

本研究の学術的背景,研究課題の核心をなす学術的「問い」

 高等教育のユニバーサル化による学生の変化と学習重視の教育環境への転換は,大学にその在り方の変革を迫ると同時に,その構成員である職員の在り方にも大きな変貌をもたらすものであり,大学職員論という新たな研究領域の形成にもつながった.しかし大学団体での 会合や個別大学内の研修等で語られる経験的大学職員論や,職員を中心に構成される大学行政管理学会等での事例報告を中心とした実践的研究と,研究としての大学職員論との間には大きな乖離があることも指摘される(羽田貴史,2013年)など,未だ萌芽的段階にある.

 さらに,2014年の学校教育法改正は学長と教授会の権限配分の変更というガバナンスの変化をもたらしたが,教授会組織とは別に,依然として教育研究に関連するマネジメントの担い手である教員と職員の位置づけについては必ずしも明らかにしていない.

 日本の大学職員に対する新たな役割モデルを描き出すには,日本の大学経営,職員の構造的特徴を踏まえた,欧米型とは異なる職員の役割モデルを提示する必要がある.濱口桂一郎(2013年)は日本の民間企業総合職の特徴を「メンバーシップ型」というモデルに基づき説明したが,日本の大学職員もまた同様の「メンバーシップ型」であり,必ずしも明示的なジョブ分担に基づかない協働による業務遂行や暗黙知の重要性など,「ジョブ型」と定義される欧米型専門職モデルとは異なる特徴を有している(ジョブ型とメンバーシップ型の定義について、提唱者である濱口とは異なる説明がメディア上で流布しているが、本研究では提唱者による定義に従う).

 現行科研〈2018-2020年度〉による検討では,メンバーシップ型としての日本の大学職員の特徴として@強い共同体性,A専門性への忌避(総合職志向),B強い独立性を持つ〈事務局〉への一元化,の3点を抽出した.かつて盛んに論じられたアメリカ型専門職モデルへの移行が実現していないのは,日本の大学職員が「メンバーシップ型」という,欧米では一般的な「ジョブ型」とは大きく異なる雇用労働システム下にあり,システム全体の差異,例 えばその〈共同体性〉を無視して「ジョブ型」に移行することは,それが職員の内発的必要性に発するものでは無かったからである.

 本研究計画は,これらの成果を踏まえて新たにどのような役割モデルが求められるのかを,社会的・地理的・政策的近似性を有し,政府主導による大学改革という政策面ではむしろ先行している韓国・台湾との共同研究を通じて明らかにしようとするものである.

本研究の目的および学術的独自性と創造性

 本研究の目的は,韓国・台湾との国際共同研究により,日本,韓国,台湾での実践の中から形成されてきた大学職員の役割モデルについて明らかにするとともに,特に近年の3ヶ国における大学ガバナンス改革を受け変化している現状とその課題について比較検証すること により,日本の大学職員に対する新たな役割モデルを提示することである.各国の具体的な職務のあり方,教員および大学経営者との関係,職員集団内部での幹部職員と一般職員,常勤職員と非常勤職員等の関係とその変容の比較・検討に基づき,各国のモデル抽出を行う.

 従来の大学教育学会や大学行政管理学会等における大学組織研究,大学職員調査では,欧米諸国を対象としたものが盛んに行われ,特にアメリカにおける上級職員の分業化した専門職モデルが紹介され,日本の大学職員との比較において分析されてきた.しかし日本における大学職員論の展開方向を探るためには,これまで参照されることの多かった欧米諸国だけでなく,東アジア地域の動向に目を向けることが必要である.特に日本と韓国,台湾の大学には,国立大学の法人化や競争的資金政策,大学評価等,共通する課題が多いとされる.また大学教員および職員の雇用環境や資格に関する社会状況が欧米諸国の「ジョブ型」モデルとは異なっており,独自な展開を遂げていると仮説的に捉えることができる.

 本研究は,韓国・台湾との国際比較を通じ,大学組織・経営論,大学職員論,能力開発論等にまたがる課題に取り組もうとするものである.新たな大学職員像の模索が続く現状において,現実的かつ内発性に基づく新たな職員の役割モデルを探る本研究の意義は大きい..

本研究で何をどのように,どこまで明らかにしようとするのか

研究代表者:深野政之(大阪府立大学)